百合とお菓子と

パンナコッタ(@yuridake2018)の百合ブログです

『吸血鬼ちゃんX後輩ちゃん』はハッピーエンドの夢を見るか?

いかにもライトなタイトルから繰り出される、過酷で冷徹で重い一撃。このスタイルの作品としては『魔法少女まどか☆マギカ』が広く知られているが、『吸血鬼ちゃんX後輩ちゃん』もそれに該当し、かつ指折りの傑作と言って良いクオリティだったかと。1巻のクライマックスで事実を明かす構成の上手さもさることながら、その後も出落ちで終わらず蝶鬼と花嫁のドラマを丹念に描き切っていた。

そんな『吸輩ちゃん』で特に注目されたのは、最後にどう締めるのかというポイントだろう。確定された死という、バッドエンドの可能性を大いに孕んだ要素がそうさせた。「治療法は見つかるのか」「見つかったとしてそれに代償はあるのか」「見つからなかったら沙羅とアイリス、紫苑と葵衣は死や別離とどう向き合うのか」etc.。

結論を言えば、治療法の発見は間に合わなかった。沙羅は助からず、葵衣は眠りにつき治療法の発展を待つ道を選択した。

しかし、この物語はそこで終わらない。最後の最後に、沙羅が遺したビデオレターで沙羅=瑞月の生まれ変わりであることをアイリスは知る。直後にアイリスは蛹化、その最中に次の生まれ変わりでも必ず沙羅の生まれ変わりを探すと約束した。

そしてエピローグ。沙羅とアイリスと同じ外見をした二人が藤ヶ嶺学院で出会うところで、物語は幕を閉じる。

果たしてこれはハッピーエンドなのだろうか。絶対的な別れという最大のバッドエンドは回避されたと言って良いかもしれない。しかし、ハッピーエンドと言い切るのもなかなか難しい。

なぜなら、仮にエピローグの二人が沙羅とアイリスの生まれ変わりだとして、彼女たちが沙羅とアイリスの同一存在であるとは限らないからだ。そのことは、他ならぬ沙羅自身が言葉にしている。

 

僕は生まれ変わる前瑞月でした

(中略)

黙っててごめんね…僕のわがままで…先輩には僕自身を好きでいて欲しかったから

 

 以上を見れば分かるように、記憶を取り戻してなお沙羅は自身と瑞月を同一視していない。これは、エピローグの二人にとっても沙羅とアイリスが自身と異なる存在である可能性を示唆している。

だから、生まれ変わった二人が添い遂げる未来があったとして、それが沙羅とアイリスにとってのハッピーエンドたり得るのかという疑問が残るのだ。もし記憶を取り戻した二人が沙羅とアイリスを自身と同一の存在と認識すれば、それは壮大な遠回りを経た完全無欠のハッピーエンドだろう。しかし、そうでなかったならば。

とはいえ、そんなことは沙羅もアイリスも織り込み済みだろうとは思う。それでもなおあの選択をして、あれだけポジティブな想いと共に生まれ変わりを果たしたのだから、『吸輩ちゃん』はハッピーエンドだったと言ってしまっても良いのかもしれない。