アニメ『やがて君になる』8話感想まとめ 〜演出論のような何か〜
アニメ『やがて君になる』8話視聴。アバンからいつもの「大まかな流れは原作に忠実に、演出はアニメ独自のものを」というスタンスが威力を発揮する。沙弥香さんにかけられた「沙弥香ちゃん?」という呼びかけ。この瞬間に原作では例の先輩の後ろ姿が描かれるが……
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
アニメにおいては「声だけ」。このシーンの肝は沙弥香さんにとっての不意遭遇を演出しつつ「あっあいつだ……」と読者に察しさせることで、原作においてはそれを後ろ姿で実現していた所、アニメ版では声優さんの声がつくので後ろ姿すら見せなくても良いってことですね。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
Aパートも引き続きそういうスタンス。中でも際立って上手かったのは、校門前での別れ際……になりかけた侑さんからのお誘い場面。「お腹すいてたりしません?」なんて遠回しな言い方でないと誘えない二人の距離感の遠さがロングショットで(しかもカメラが徐々に後ろに下がっていくw)表現される。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
そんなぎこちなさすぎるお誘いの甲斐あって到着したマックモドキのファストフード店。ここで「燈子さんをどういう意味で好きなのかという話題になった時、沙弥香さんは「友人として、先輩として」以外に何があるのかと「大嘘をつく」。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
視聴者が知っての通り、沙弥香さん視点では後者はともかく前者は完全に大嘘。そんな大嘘を原作の沙弥香さんは完璧にすまし顔でついてみせるが、アニメ沙弥香さんは視線をそらしちゃう。トロイカお得意の非言語的な心理描写だ。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
マックモドキを出て信号待ちする二人は、「そんな日(燈子さんが燈子さんになれる日)が来たら」と想像する。そのディテールは明確に対比的。そんな構造を、原作はコマ割りで二人が背中合わせになっているかのような配置を作り出すことにより表現してみせた。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
ところがアニメにはコマ割りなんてものは勿論なく、横に並んだ二人を順番に映さなくてはいけない。それでどうやって対比構造を作り出すのかって話だが、これはもうアニメ『やが君』が提示した手法が最適解で、沙弥香さんを画面の左半分に、侑さんを右半分に配置してしまえば良い。シンプルイズベスト。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
二人は話が進むにつれて「踏み込む者」と「踏み込まない者」という対比構造も築いていくことになる。それを示すのは、二人が歩き出したときのロングショット。すなわち、右折する車(いずれかの方向に進みたいと思う侑さん)と停止中の車両(そのままで良いと願う沙弥香さん)という構図だ。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
さて、Aパートが終わり相合い傘エピソードのBパートに入る。ここで少し意外だったのは、灯里さんが先輩と帰っていく様子を侑さんが意味深に見ていた原作と比べて、アニメはだいぶあっさり演出したなってことで。ここは所謂「解釈違い」というやつなのか、まあ誤差の範囲ではあるので特に文句もない。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
侑さんは他に傘に入れてくれる友人知人を探すも見つからず、また電話した姉はデート中のため「邪魔しちゃ悪い」と迎えを遠慮する。そうして「濡れて帰るか」と覚悟を決めた瞬間に颯爽登場したのが燈子さん。直前に燈子さんにも連絡しようか迷っていただけに、侑さんは驚き反応も緩慢なものに。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
この場面で秀逸だったアイデアは、スマホをさりげなくしまう侑さんの所作。これ、原作だと燈子さんに声をかけられる前の所作なんですよ。原作バレなので曖昧な言い方をするが、ここが6巻の「いつから?」の有力候補であることを示す良い改変だ。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
「普通に先輩に迎えに来てもらう」だけなら電話しようとしていたことがバレてもさして問題にならないですからね。何かしらの感情があって、侑さんと燈子さんの関係性からしたらそれを隠さなければならないと判断したからこその所作ではないかと。おそらく、全てがほぼ無意識的なものでしょうが。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
さておき、そうして二人は相合い傘で帰路につく。ここでもアニメ独自の要素が輝いた。「子どもの頃の話なんてできるの、侑くらいだね」。原作ではこのすぐ後に傘を持つ役割を二人で奪い合い始めるが、アニメでは燈子さん見て、そして視線を逸し何事かを思案する侑さんのカットが挿入された。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
コマの移動がある漫画と違って、時間がひと連なりとなるアニメで原作そのままをやるとカットの繋がりが最高に悪くなっていたと思うのでこれはかなり気の利いた処置。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
その上、思案の内容が「侑くらいだね」というセリフにさらなる重みを付加しているのもグッドポイント。そうやって特別視されるのは、自分が好きを知らないからで、でも本当はそれを知りたいと思ってる、なんて状況を改めて突きつけられたらそりゃあんな複雑な表情にもなる。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
相合い傘だけではやはりそこそこ濡れてしまい、結局雨宿りをすることになった二人。ここでは持ってきたタオルで侑さんが燈子さんの髪を拭くという面倒見の良さを発揮する。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
注目したいのはカメラの位置で。アニメ『やがて君になる』、やはり支障ない場合はイマジナリーラインを普通に破っていくスタンスの模様。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
このスタンスはトロイカのリーダー格あおき氏がかつて明言したもので、『空の境界』画コンテ集では「僕はもう破りたくてしょうがなくて。支障さえなければ、いつでも破って構わないと思っているんですよ」とまで言っている。故にトロイカ作品がそういうスタンスで作られるのは不思議なことじゃない。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
それはそれとして、「このアニメは原作の要素を拾って追加要素を作るのが上手いなあ」と改めて思わされたのが侑さんの背伸び。身長差の話は原作の時点で存在するが、そこを絵作りに活かす抜け目なさが凄い。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日
最後に、Cパート。ここでAパートの校門前の侑さんと沙弥香さんをロングショットにしたことが活きる。距離感が微妙だった二人が「隣り合って」座り、「燈子って厄介よね」という点で共感し合う仲になったことが強調された。
— パンナコッタ (@yuridake2018) 2018年11月27日